「宇宙ってあれでしょ。突貫工事で作ったんでしょ」

工事現場

(何言ってんだこいつ)

「地上とかさ、地上から見た惑星とか恒星とかその他の天体の運動とか。そのあたりまでは問題なかったじゃん」

(はあ?)

「でも宇宙自体が何なのかを観測し始めたあたりから、急におかしくない?」

(おかしいか?)

「それまでは、力学なんかの古典物理学で大体説明できてたじゃん」

(そんなこと言われてもなー)

「宇宙もそうだし、素粒子もそうだよね。精密なことができるようになったら破綻した」

(うーん、でも宇宙って人間が法則を作る前から宇宙じゃない? だったら、人間の作った法則に従ってないといけないってことはないでしょ)

「でも、急に辻褄合わないのおかしくない? これまでの古典物理学が近似だったっていうのはわかったよ。だったら、もうちょっと、それに寄っていて欲しいんだけど。量子力学とか急に別の話するじゃん」

(知らんがな)

「だからさ、宇宙なんか無かったんだよ」

(お前も急に話飛ぶじゃん)

「地球はあったよ? でも宇宙は無かったんだよ。壁紙みたいな感じで、地上から見て矛盾のない宇宙を見せていたんじゃない? 恒星とか惑星とかも力学でちゃんと説明つくように動かしてさ」

(今はあるじゃない、宇宙)

「だからそれを、突貫工事で作ったんじゃない? ってこと」

(誰がよ?)

「そりゃ、神様的なあれだよ」

(またいい加減なこと言ってる)

「最初は壁紙宇宙でごまかせてたんだけど、途中からごまかせなくなってさ。だから急に作らなきゃいけなくなったんだよね。まったく、困ったものだよ」

(現状、俺も困ってんだけど)

「だからさ、まず基礎的な部分を一気に作ったわけ。骨組みみたいな感じの。いやでもおかしな話さ、これを昔からある風にしなくちゃいけないわけ。『何もないところから高密度の熱い宇宙が生まれて膨張して、今の宇宙が構成された』って歴史があるはずだからね。10年前に買った包丁が、手入れしてないのに今でもザクザク切れますとか、ちょっとおかしいだろ? 錆びついてた方がリアルじゃん」

(密度の高い小さいものが膨張して密度が低くなった、って設定作るだけじゃない?)

「そう簡単には行かないんだよ。まあ、この宇宙は僕が作ったんだけど」

(作ってない作ってない)

「明らかに足りないんだよね。宇宙にある全物質、太陽系のある銀貨系以外にも何億何兆って銀河系があるんだけど、そこにある物質をすべて足しても爆発的な膨張を起こすには足りないんだよ。これじゃビックバンは起こせない」

(それバンドの新譜タイトルか何か?)

「でもそんなの知らないからさ。知らないままに宇宙をババっと作ったんだよ。そしたら、おかしな物質が生成されちゃったんだんだよね。つまり辻褄合わせ。これが謎の物質といわれるダークマターってやつ。本当に謎。宇宙を作った側も何だかわからない」

(適当なもん作んなや)

「会社で作ってんだよね、これ」

(あ、うん?)

「会社でさ、プログラム組んでて、バグに気づいたんだよ。あれ何か変なオブジェクト生成されてるなーって」

(えぇ……?)

「『あヤバ、ちょっとこれ上司に聞いてみないと……』って、顔をあげて探したんだけど、上司は部長と何か話しててさ、ちょっと声かけづらかったんだよね」

(そりゃそういう時あるけどさ)

「うんまあ、もうすぐお昼休憩だし、そのあとでいっかーみたいな」

(よくねぇよ)

「だから今、お昼ご飯食べてんの」

(今も!?)

「いやだからさ、宇宙が生まれて、138億年とか経ってるわけで。よく言われるけど、これを一年とかに換算したら、人間が生まれてからまだ数分しか経っていないわけで。宇宙に行けるようになってからは数秒ですよ。プロジェクト期間が長かったとしても、作った側の寿命で考えると、やっぱりまだお昼休憩終わってないんだよ」

(もっと責任持って!!)

「その結果、古典物理学では説明できなくなっちゃったってわけ。本当はこっちもそれで説明できるようにするつもりだったんだけどさ」

(もう、ぐっだぐだだよ)

「観測して初めて事象が確定するようになったのも、これの所為。人間がここまで観測網を伸ばすと思ってなかったからさ。だから観測した瞬間に作ってる。いつもギリギリ」

(ギリギリ)

「ギリギリでいつも生きていたいから」

(リアルは手に入れなくていいから)

「いや、僕はちゃんと言ったよ? そんな予算とかないし、壁紙宇宙のままでいいじゃないですかって。でも主任がさー、これで行きますとか言っちゃってさー。ちょっと意識高くなーい? みたいな」

この物語はフィクションです。 実在の人物、地名、団体などとは関係がありません。

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